■夫婦な二人へ10題(お題配布元:モモジルシ
 ※140文字縛り。




01 おい、あれ

「ねえ、あれどこ置きましたっけ」
「ハンコならお前の机の引き出し」
「貴方、あれもしかして捨てちゃいました?」
「あんな不気味なフランス人形なんかどうすんだよ」
「あれ、どうしましたっけ?」
「出陣の報告書なら一昨日俺が書いて提出しただろうが」
 その会話にひたすら首を傾げる部下たちがいる。




02 主婦の休日

 今日も俺にはあいつに食わせて風呂入らせて寝かせるという仕事が待っている。気を引き締めて執務室のドアを開けると、あいつは風呂上がりの格好でラーメンを啜っていた。
「あ、この後きちんと寝る予定ですから。たまには貴方にも休日をと思いましてね♪」
 なんか寂しいと思ってしまったら負けだ、俺。




03 指輪

 いつもの如くあいつの部屋を片付けていたら、小さな箱が出てきた。
「おい、何だコレ」
「何でしょうね」
 開けてみるとシンプルな銀色の指輪が出てくる。
「お前に似合いそうじゃん」
 ふざけて左手の薬指にはめてやるとぴったりだった。
「お揃いで貴方の分も用意しないといけませんかね」
 それも悪くない。




04 不意打ち

 下界への出陣の任が下った。軍服に身を包んだあいつは、人格が変わったように怜悧な眼差しで俺の出す指示に聞き入っている。命令通りに部下が散らばっていくのを見ながら俺も銃に弾を込める。不意に、頬に軽くキスされた。
「怪我、しないでくださいね」
「分かってる」
 二人並んで地面を蹴り駆け出す。




05 記念日

「俺らに記念日とかあったっけ」
「何です突然」
「いや、なんか勿体ない気がして」
 下界ではなにかと記念日だの祝ってるのに。便所下駄を鳴らして近付いてきたから抱き寄せると、声が耳元で囁く。
「そんな細かいこと気にしてたら身が持ちませんよ。僕らは毎日が記念日みたいなもんですから」
「確かにな」




06 久しぶりに

「煙草が切れましたし、新しい本も欲しいです」
「じゃあ、下界行ってくりゃいいじゃん」
「分からない人ですね、僕は貴方と行きたいんですよ」
 そう言うと一瞬彼はぽかんとした顔をしてから笑った。
「じゃ、久しぶりに下界デートといきますか」
 デートって柄でもないですがね。それでも僕らは手を繋いだ。




07 お風呂?ごはん?それとも…

 執務室に帰ると彼がソファに座っていた。
「風呂入ったか? 飯食ったか?」
「……いいえ」
 口ごもると彼が眉をつり上げたので、瞳を潤ませて彼の頬に触れた。
「それより貴方が欲しいです」
 それを聞いた彼は口の端に笑みを浮かべ、
「その手にゃ乗らねーぞ! いいから俺が飯作る間に風呂入ってこい!」




08 冷たい足

 僕は冷え症だ。風呂上がりにソファに並んで座ると、足首を掴まれてひっくり返された。
「また靴下なんか履いてんのか」
 そのまま靴下を脱がされる。彼の手が裸足の爪先を包む。
「うわ、やっぱり冷てぇ」
 しばらくの間じんわりと温かい手で足先が温められて、眠くなってきた。このまま寝てもいいですか。




09 さりげない優しさ

 例えば、僕の部屋を何も言わずに片付けてくれる。例えば、寝ている僕に毛布をかけてくれる。例えば、僕が本を読んでいて辺りが暗くなると部屋の明かりをつけてくれる。例えば、煙草の火を探しているとライターを差し出してくれる。そんなさりげない彼の優しさに包まれて、今日も僕は生きている。




10 死が二人を別つまで

 ねえ、憶えていて下さいね。僕が吸っていた煙草の匂いとか、なんだっていいんです。そして死ぬ間際には思い出して下さいね。
 ああ、分かった。憶えておく。お前も俺のこと何でもいいから憶えておいてくれ。二人で下界に行ったこととか、焼き肉食ったこととか。何でもいい。
 ――それじゃあ、またあとで。

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