■獣が二匹




 妖獣討伐の任務から帰るなり、二人は縺れ合うようにして天蓬元帥執務室へと入った。
 ドアを閉めて呼吸を奪い合うようなキスをする。お互いの軍服に染み込んだ血と汗の匂いで頭がくらくらする。まるで獣だ、と天蓬は妙に醒めた頭のどこかでそう思う。それが捲簾に伝わったのか、舌を強く吸い上げられて思考が溶かされる。

「何考えてんだ」

 薄暗がりの中で捲簾の目がぎらついている。
 熱っぽく浅い息を繰り返す天蓬の腰を抱えながら捲簾はソファを仰ぎ見る。あいにくと書物で埋まっているそこを見て舌打ちすると、天蓬を肩に担ぎ上げた。
 抵抗する間も有らばこそ、部屋の中で唯一片付いていた執務机の上に背中を落とされる。何するんですか、と抗議の声を上げる唇をのしかかってきた捲簾のそれがまた塞ぐ。それと同時に軍服の前を開けて手が滑りこんでくる。かさついた手のひらが天蓬の肌をまさぐる。

「……んっ」

 胸の尖りを指先で押し潰されて天蓬が息を詰めた。捲簾が口の端に笑みを浮かべるのを見て、天蓬は捲簾の左肩を思いきり掴む。そこは討伐の際に捲簾が妖獣の爪で負傷した場所だ。

「怪我、しましたね」
「……怒ってんの」
「怒ってます」

 捲簾がヘマをしたわけではない。部下を庇ってできた傷だ。それでも天蓬は責めるように傷口の辺りに爪を立てる。手当てされているとはいえまだ生傷のそこは、おそらく服の、包帯の下で血を滲ませているだろう。捲簾が痛みに眉を顰めている。
 ああ、この人、イく時と同じ顔をしている。
 そう思うと堪らなくなった天蓬は軍服のズボンとブーツを脱ぎ捨て、白い脚で捲簾の腰を抱き寄せた。その仕草と瞳だけで早く欲しいと訴える。
 天蓬のものはもう充分に硬度を持って勃ちあがっている。捲簾はその先走りを利用して天蓬の後ろを適当に解すと、一気に奥まで貫いた。

「……ッ、ん!」

 噛み殺した喘ぎが天蓬の食いしばった唇から漏れる。苦痛と快楽を逃がそうと頭をふるふると振った。長い髪がぱさぱさと音を立てて机の上に散らばる。キツい締め付けに捲簾も歯を食いしばって耐えた。ぽたり、汗がこめかみから落ちる。
 窓から差し込むぼんやりとした月明かりが天蓬の白い肌を照らし出している。
 忙しない息をつきながら天蓬が捲簾の胸に手を這わす。

「上、脱いでください」

 捲簾は逆らわずに上着を床に落とす。肩口に巻いた包帯には案の定血が滲んでいた。天蓬の両腕が伸びてきて、捲簾もそれに応えるように身体を前に倒す。背中に手が回されたのを確認してから、捲簾は一度ギリギリまで引き抜き、再度奥を突く。

「ん、ああッ!」

 今度こそ押し殺しきれない声が零れて、捲簾の背中に爪が立てられる。刀や銃を握る手でつけられるその傷は肉を抉るほどで、その痛みに捲簾は頭の芯が痺れる感覚を覚えていた。本能のままに腰を打ちつけると、ガリガリと両手の十指の爪が背中を抉りながら滑って筋状の傷をつける。

「あぁ、く、あ……けんれ……んっ……!」
「天蓬……ッ」

 絡みついて誘い込む中につられるままに何度も何度も奥を穿つ。
 やがて天蓬はびくびくと震えながら腹の上に白濁を吐き出し、捲簾もその中に出した。やはり捲簾が先程傷に爪を立てた時と同じ顔をしたのを見て、天蓬は艶のある微笑みを浮かべた。

「……貴方に傷をつけていいのは、僕だけです」

 爪の先が血に染まり、爪の間に肉片が詰まった手が差し出される。捲簾はその手を取り、手の甲に恭順の証にキスを落とした。




誰かタイトル代わりに付けてください……と毎度思う。

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